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たった四ヵ月のことだし、研修期間は実家で過ごすことにした。
久々の実家生活である。
と言っても、現在、僕が十代を過ごした阿良々木家に住んでいるのは、長女の阿良々木火憐、ひとりだけである。
三人の子供達の高校卒業を待っていたわけでもないだろうが、次女の月火が大学に入ったタイミングで、県警幹部だった父親と母親は、中央に引き抜かれて行った。
夫婦一緒だから単身赴任とは言えないだろうけれど、まあ、僕が大学二年の春から家を出ていたので、それからは姉妹が二人暮らしをしていたのだが、更にその一カ月後、なんと月火があっさりと大学をやめて、海外の大学に入り直した。
マジかよ。
なんと言うか、まあ、元々日本に収まるスケールの妹ではなかったので、ある意味順当な進路とも言えるのだが、しかし結果として、その後火憐がひとりもゅでこの家に住まう羽目になってしまったことについては、やや心苦しく思っていた。
そう思うんだったらもっと頻繁に実家に帰れよという話でもあるが。
なので、せめてこの四カ月だけは、火憐に優しくしようと決めていた。
ただ、そのあたたかな決意は懐かしの我が家の玄関を開けたところで途絶えたーーひとりで暮らすには広過ぎる一軒家を、彼女は散らかしまくっていたかだ。
家を片付けるのに、三日かかった。
「しょーがね一だろ。あたしは兄ちゃんと違って、去年から働いてんだからよー」
放たれたそんな言い訳を、兄として一応は聞いておいてやった。
土台、一番早く家を出た僕に文句を言う権利はないのだし、こと労働に関しては、火憐は僕よりも先輩である——高校卒業と同時に、彼女は働き始めたのだ。
それも直江津署で。
中学時代から習得していた強烈な格闘技を、いったいどう活かすのかと思つき1ちゃうていたが、まさか逮捕術として活かそうとは......、かつて栂の木二中のファイヤーシスターズで実戦を担当していた阿良々木火憐は、現在、生活安全課の巡査である。
適材適所といえば適材適所ではあるのだけれど、しかし、まさか妹に先を越されるなんて。
カエルの子はカエルじやないけれども、警察官夫婦の長男長女が、揃ってお巡りさんになろうとは、こうなると、月火の自由さが際立つ。いや、何かと兄や姉の影響を受けやすかった、末の妹に欠けていた独立心が、ニ十歳を目前にようやく身についたということなのかもしれない。
「召し上がれ!」
「いただきます」
整理整頓のほうはからっきしだったけど、しかし、少なくともここしばらくの一人暮らしは、火憐に料理スキルを習得させることには成功したようだった。
こうなると、ますます大きなことは言えないし、大きな顔もできない。
四年も離れていたのだから当たり前なのだけれど、なんだか、自分の家じやないみたいなお客さん気分だ。
「で?どうだったの?兄ちゃん。兄ちゃん警部補」
「兄ちゃん警部補って言うな。心から馬鹿にするな。キャリアだぞ」
「不思議なくらいいいイメージがね一よな。テレビドラマのせいかな」
それは我ながら思うところではある。
あれだけ必死に勉強して、大学受験のときの倍くらいい勉強して、それでようやっと国家総合職試験を通ったと言うのに、結果イメージが悪いって......。
大学の同級生からも、権力欲と出世欲の塊みたいに言われた。言われまくった。
気の置けない妹相手でもない限り、自らキャリアは名乗れない。
研修先でも現場の警察官からいじめられるんじやないかと、実のところ、はらはらしていた……、社会人になってまでどうしてこんな思いをしなきやいけないんだ…...、幸い、風説課では、そんなことはなかったけれど、しかし、別の意味でエリート扱いされている。風説課の人間は、ほとんど全員、何らかの形で怪異にかかわり、その身体と人生に怪異を宿しているはれど、怪異そのもの会話、意用疏通ができるのは。
エリート扱いねえ。
高校時代、底辺まで落ちぶれた僕にとっては、やっぱり、あんまり嬉しいとは言えない言葉だ。
「はっはっは。それ受けるわ。あれか。反権力を叫んでいるうちに、いつの間にか権力を持っちまった奴みて一なもんか」
がつがつと、僕の倍くらいのカロリーを摂取しながら、妹が小賢しいたとえを述べたー一身長が、大袈裟でなく僕の倍くらいある妹なので(いや、大袈裟だった。実際は、僕よりほんのニ十センチほど高いだけだ)、ただでさえ基礎代謝の高いところに、生活安全課の名物警察官として大活躍中の彼女は、必要としているカロリーが、僕とはけた違いなのだろう(これは本当に大袈裟じゃない)。
現場の警察官か。
うーむ。
僕がしたかったのは、どちらかと言うとそういう活動だったはずなのだが……・、周防さんが『なれるものになるしかない』と言っていた言葉を、妹の社会性を見ることで、実感する。
僕は妹にはなれないし、妹は僕にはなれない。
「まあ、兄ちやんみて一に衝動と感情で動いいちゃう人間は、現場向きじゃね一んじゃねーの? マホガニーの机で偉そうにふん反り返ってるのがお似合いだぜ」
「妹から言われると、そんなに腹の立つ台詞もないな。衝動と感情のまま、ぼかりと殴りつけたくなって来るぜ」
「お。久し振りに一戦交えますか?歯ブラシなら用意してるぜ」
「やめろ。若気の至りだ」
それに今日は現場に出たぜと、僕はなけなしの主張をした。
エリートの主張だ。
「幸いなことに、風説課は僕を干さずに、ちゃんと便利に使ってくれるらしい。現場に連れてってもらえたし、腫れ物扱いもなしだった」
「ふうん。まあ、あの課は、存在自体が腫れ物みて一なもんだからなあ。アンタツチャブルって言うか。上からの肝煎りだから、署内でもよ かり流れてるぜ」
それこそ風説だ。
臥煙さんの望むところか。
「生活安全課に来たら、先輩として兄ちゃんを可愛がってあげたのになー」
「そんな過酷な目に遭うくらいだったら、他の職を探す」
僕は肩を竦める。
若気の至りの復讐を、そんな形でされたくない......、しかし一方で、実は正直、そうなればいいと思っていたことは内緒だ......、有力な親のコネならぬ有能な妹のコネで、心地よくはないであろう研修期間をつつがなく終えられたらいいのにと、こすいことを考えていた。
くじけてよかった、本当に掛け値なくこすい希望である。
「ちなみに火憐ちゃん。よくわかんね一噂って言ってたけれど、風説課のことを、具体的にはお前はどうとらえてるんだ?」
身長は百八十センチを超え、年齢は二十歳を超えたというのに、僕はいったいの妹のことをいつまでちゃん付けで呼び続けるのだろうと思いいつつ、そう訊いてみる。
何度も直そうとして、とうとう直らないままなのだ。
「んー。地域に流れる不穏な噂みたいなもんを検証するのが、主な仕事だって聞いてるけどな。事件が起こる前に解決するっていうのか…...、悲惨な結果になつたあとで、『事前に相談はあったのに』みたいな悔いが残ることって、ままあるじゃん。そういうのを防ごうってことで、設立されたのが風説課だとか 事件を解決するんじゃなくて、事前に解決する。でも、逆の理解をしてる連中も大勢いたぜ。事件性のなさを立証するのが風説課の仕事だって」
「ふむ」
さすがに怪異がどうとか、妖怪がどうとか、そういう噂までは流れていないようだけれど、なるほど、まるっきりの秘密部署というわけでもないようで前者にしても後者にしても、かなり真実に近い噂が流れているようだ。
適度に漸近している。
その辺も徐々にオープンにしようという試みなのだろうか。
研修に臨むにあたって、四年ぶりに会った臥煙さんは、そんなことを言つていた——どこまで本気なのかと思っていたけれど、どうも、僕が思っていた以上に、この件に対して、あの人は本気だったらしい。
「世を忍んでの専門家業も、そろそろ公の組織に移行する時期が来てるんだよ、こよみん——かつての陰陽師がそうだったように、ある意味、原点回歸とも言。